鷹が住んでいた、その小さな街にＰＨが出来たのは、いつ頃だったろう。
　それまで名前しか知らなかったブランドの、小さな路面店。

　とてもとても敷居が高い気がして、一度も入る事なんて出来なかった。

　そのお店が、地方デパート別館のテナントに入る事になった。
　今度は入るのは問題ない。ＰＨは１階に入っていたから、２階に行く時は勿論、本館へと通り抜けるちょうどいい通り道だったから皆そこを通っていたし。

　でもそれでも、ＰＨは鷹にとって別世界だった。
　フリルやリボンで飾られ、色とりどりのプリントに彩られたお洋服達。
　その中を、ロングのソバージュの髪を揺らしながら立っている店員さん達。
　なんだか何もかもが、夢の様に眩しい気がした。

　だから通り抜けるのも、なんだかちょっとどきどきした。
　お洋服の前で立ち止まって、ゆっくり見るのも許されないみたいな。そんな気がした。

　それでも店員さん達は親切だった。
　そんなおどおどした私にも、いつも声を掛けてくれてた。
　初めて試着したのは、シーチングの無地のワンピースだった。
　フリルはついてない、ピンタックのみのワンピース。リボンは・・・確か付いてなかった気がする。

　それでも、とてもどきどきした。
　沢山並んだ、小さなボタンに。柔らかい布地に。微妙な色使いに。

　勿論、（と、いうかなんというか、）そのワンピースは私の物にはならなかった。
　残念だけれど、私にはちょっと無理な値段だったから。

　結局、初めてＰＨのお洋服を買ったのはそれからまた少し後になる。
　時期はちょうど今頃、その街は七夕のお祭りで賑わっていた。夏のセールで、私は初めてのＰＨを手に入れた。初めて試着したのと同じ色、同じ素材のスカートだった。

　そのブルーグレイのスカートは、未だにとても大事な物。
　シンプルだけれど、とても可愛くて・・・。

　それからしばらくは、シーチングのアイテムをぽつぽつ買い足していた。
　だから未だに、シーチング商品はちょっとだけ特別です。

　今はあんまり、出なくなってしまったけれどね。

1999/07/08