それは今から５年以上前の事。

　社会人になって、同じ課に配属された同期の女の子は大卒の２つ年上の女の子でした。美人で、東京の大学を卒業したばかりの彼女は、なんだかとても大人に見えました。

　ある日、どういう経緯だったか、彼女の買い物に付き合う事になりました。
　それまでの鷹は自分ひとりでお洋服を買いに行ったりしない女の子でした。なんだか店員さんが恐かったのです。
　試着をしても、判を押した様に「お似合いですよ」って言われる。そんなの信用出来ないけれど、自分の目だけじゃ心配だから、誰かと一緒でなければお買い物に行けなかったのです。
　彼女はいつも一人で買い物をするというので、どうしてるの？と聞くと「幾つか着てみて、どれが一番よかったのか聞けばいいんだよ」と教えてくれました。
　「そんなものかなあ」と思いながら、私は彼女の後を着いて行きました。そして、彼女の行きつけのお店に着いて。

　「こんにちは！」
　店員さんは彼女にそう言いました。
　彼女も同じ言葉で応えて、まるで友達みたいに話をして。

　「そうか！　鷹に足りなかったのはこれだったんだ！」と思いました。
　それからは、それまでの店員さんに対してなんとなく持っていた恐いイメージを捨てて、なるべく積極的に色んな事を聞いたり話したりする様にしたのでした。

　その甲斐あってか、それからしばらくして、鷹にもそんな店員さんが何人か出来ました。
　なかでも、鷹のお洋服趣味の基盤を作ったきっかけになったのは、ＳＵＧＡＲというブランドの担当さんでした。彼女は鷹が初めて名刺を貰った方でもあります。
　その時の、自分が特別になった様な気持ちは、忘れられません。
　この頃初めて、「他の所で買うなら彼女の所で買いたい」という気持ちを知り、そして今に至るのです。

　今でも、お店に行って「こんにちは」って言ってもらえるととても嬉しくなります。
　「いらゃっしゃいませ」よりもずっと嬉しくて、ちょっと特別な言葉ですよね。

1999/09/14