好きな色はありますか？　そして、苦手な色はありますか？

　「Ｈｏｗ　Ｂｅａｕｔｉｆｕｌ」から続いているこのテーマですが、鷹にはもうひとつ、苦手だった色がある。
　それは、ピンク。

　“だった”、と書くからには今は得意なのか、と言われるとそうではないのだけれど、以前程の苦手意識はなくなった様に思う。

　以前から相方には、「ピンクも似合うと思うから着てみて」って言われていた。でもその度に、「もっと色が白くなったらね」って断わって。

　鷹にとってピンクは、色の白い人が着る色だった。
　ピンクは肌の黄色い自分には似合わない色だと思っていたし、何よりもその可愛らしい色は自分のキャラクターにはあわないと思っていた。

　そんなある日。
　あれからもう１年経ったんだなあと思う。

　９８年の１０月。ＰＨは秋のフェアで賑わっていた。
　フェアの柄は苺リース。苺でハート型にかたどられたリースの、とても可愛らしいプリント。
　可愛かったけれど、赤が苦手な鷹にとってはもともとノーマークのプリントだった。初日は一応渋谷ＰＨＷを見に行って、「可愛いけどワタシにはねぇ」なんて言って。

　で、２日目は相方といつものお店に行った。友達とも待ち合わせて、久し振りに担当さんと会える事にうきうきして。
　「こんにちは〜」って現れた担当さんはピンクのローウエストワンピを着ていた。前の日に渋谷で見た時は、「ピンクは可愛いけど甘過ぎるなー」なんて思ってたのに、なんだかすごく、すっごく可愛く見えて。

　いつもは赤がちょっとでも入っていたら、それだけでもパスなのに、気が付いた時は「試着しちゃおうかなあ」なんて言っていたのだった。その後は、あれよあれよってくらい、展開が早かった。じゃあどの色を試着しようか、って担当さんと相方と友達まで巻き込んで相談して。
　「じゃあ、試着じゃないと着ないピンクにしてみよう！」と。

　ピンク。
　ずっと着ようとはしなかった色。
　試着室の鏡の中のワタシは、いつもとすごく違って見えた。絶対に似合わないと思っていた色だけれど、思ったより変じゃなく思えた。

　試着室から出て、３人の前に出た。
　「可愛いよう！」って言ってもらえた。
　なんだかその言葉がくすぐったくて、すごく嬉しかった。

　相方の嬉しそうな顔も嬉しくて、すっかりその気になってしまった。
　結局、バッグと靴下、３点セットで買う事に。
　ホントにどきどきのお買い物。

　鷹にとっては本当に大冒険だった。
　こんなに赤が入ってる、しかもピンクのワンピだなんて。
　すごくＰＨらしい、可愛いお洋服。

　何もかもが鷹にとっては大挑戦に思えて、「似合うかな」とか「変じゃないかな」って本当に不安で、でもすごく嬉しくて。

　なんだか初めて買ったワンピの事を思い出した。
　嬉しくて、でもちょっと不安。すごく久し振りのどきどき。

　結局いつも同じ様な色しか買わないから、いつも同じ様なコーディネイトになってしまっていたその頃。新しく買った服を家に持って帰って、久し振りにどんな風にあわせようかって着たり脱いだりして。
　鏡を見たら、すごくいつもと違う感じで、なんだかすごくＰＨっぽく見えて。

　・・・どきどきした。
　鷹にとっては、本当にすごい大挑戦だったのだ。

　それはもうすぐショウ、という時期だったから、このワンピースをショウに着て行く事に決めた。
　そしてそれからショウの日までの間、ワタシは寝室の壁にそのワンピースを吊るしていた。新しいお洋服の、新しい色のデビューは期待と不安でいっぱいだったから。
　だから少しでも自分の気持ちを馴らす為に、毎日そのピンクの苺のワンピースを眺めていた。

　どんなあわせ方をしようか、どのコサージュをあわせようかって心の中がいっぱいで。
　とても贅沢で、幸せな時間。

　そして、ショウの日が来た。

　開場よりも随分早い時間に並び始めた鷹は、初めてのピンクにどきどきしていた。でも、そのどきどきした気持ちは、開場の時間が近付くにつれて、どんどん沈んで行った。

　列に並んでいる他の人達に、妙に苺リースの方が多く思えた。
　しかもびっくりする様なフルコーディネイトの方ばかりが目に付いた。

　更に不運だったかもしれない事は、自分の後ろに並んだ人が、本当にばりばりのフルコーディネイトの方だった事。
　色や形こそ自分とは違っていたけれど、ううん、違っていたからこそ、かもしれない。
　まるでカタログから抜け出た様なコーディネイトのその人を前にすると、何日も前から一生懸命考えてきた自分のコーディネイトがなんだかとても見劣りして思えて。

　ずっと、「本当のお洒落じゃない」って思ってたカタログ通りのフルコーディネイト。
　でも実際、そういうカタログから抜け出た様なコーディネイトの方の隣に立ってみたら。
　その人のコーディネイトは、やっぱりとっても可愛くて素敵に見えたのだった。

　じゃあ、自分は他の皆からどんな風に見えているの？、って。
　そんな事、気にしても仕方のない事なのに。

　多分、鷹のピンクデビューがこのまま終ったら、きっと二度とこの色を着る事はなかったかもしれない。

　それからまたしばらくして。
　そのワンピースを着て、担当さんのいるいつものお店にいった時に、多分その悲しい気持ちにつぎをあてる事が出来たのだと思う。

　相方は勿論褒めてくれた。
　担当さんも褒めてくれた。
　勿論、そういう人達が褒めてくれるのなんて当たり前の事。

　でも、何よりも自分がその日のコーディネイトを可愛いって思えたから。
　だからワタシの中の少女は、救われる事が出来た。

　自分を元気付ける為にお揃いの帽子を買い足して、そのままかぶって実家に遊びに行った。
　そりゃ実家の家族には色々言われましたが、それはいつもの事。

　大事なのは、自分の気持ち。
　それが判ったから、もう大丈夫。

　お洋服を買った時の、どきどきした気持ちを忘れない様に、これからも色んなコーディネイトに挑戦しよう。
　後で気付いたのだけど、鷹が初めて買った、この時のピンクは少し黄色味のあるこっくりしたピンクで、だから肌の黄色い自分にも似合ったのだと思う。

　“ピンク”って名前でくくってしまうと、まるでたったひとつだけの色の様な気がしてしまうけれど。実際にはお洋服の数だけ、その色はある。
　他の色も同じ、最初から「似合わないよ」って諦めてしまわずに、自分に似合うその色を探せばいい。

　自分の中にいる、素敵な色達に憧れている少女の気持ちに蓋をしてしまわない様に。
　諦めないで、自分の気持ちと、色に隠された魔法を信じよう。

　全ての人達が、自分の中にある理想のプリントに出会えます様に。
　そして沢山の色達が、それを愛する人達に巡り合えます様に。

2000/02/09